ドラッグ・ディテクティブ・クイーン:ミス・キャスリング事件簿 — 第7話:5月8日

ドラッグ・ディテクティブ・クイーンのミス・キャスリングと相棒たちが、今度こそ正しい極、南極へ向かう。シリーズ第7話。M.K. Flintによるコメディミステリ小説。

何もなかった。

それが最初に分かったこと。スヴァールバルには色のついた家があった。世界中の都市を指す木の道標があった。通りを歩くトナカイがいた。町があった。ここには何もない。家もない。道標もない。通りもない。町もない。色もない。白だけ。白い氷、白い空、住所を探して見つけられないものみたいに表面を渡っていく白い風。

ミス・キャスリング——ロンドン警視庁警部補——は氷棚の上に立ち、360度ぐるりと回った。オーロラ柄のダウンジャケット。白いエコファーの厚底ブーツ。ブロンドのウィッグ。空白の画面にたった一つのピクセル。

「何にもないじゃない!」

左肩に、AT。シリアルユニットAT-01。レイヴン。シャンパーニュブロンドの羽。紫のケブラーベスト。静かに虚空を見渡していた。驚いてはいなかった。

後ろに、サージェント・ウィスカーズ。正式にはロンドン警視庁自律捜査課シリアルユニット09。AI搭載のロボット猫であり、ミス・キャスリングのパートナー。だが彼女は「ウィスキー」としか呼ばない。ブリティッシュショートヘア型、体重10キロ。チタン合金のフレームを覆う高密度のブルーグレーの毛並み。後ろ脚で立てば60センチ弱。明るい青い目が白を見渡した。耳は前。スキャン中。スキャンするものが見つからない。

「南極大陸には恒久的な居住人口はありません。最寄りの拠点はアルゼンチンのエスペランサ基地で、おおよそ——」

「誰もいないのは分かってるわよ、ウィスキー。」

スマートフォンを取り出した。地平線に向けた。写真を撮った。回った。もう一枚。また回った。何もないものを3枚撮った。画面を確認した。白。白。白。

「きれい」と、誰にともなく言った。

そして、見えた。

徐々にではなく。一羽ずつでもなく。一度に全部。白の向こうに隠していたのを大陸が気を変えたかのように。ペンギン。何千羽。何万羽。エンペラーペンギンが地平線まで続く隊列を組んでいた。白と黒。白と黒。白と黒。どの方向にも同じ二色、同じ形、同じ直立した体が氷の上にエッシャーの版画のような無限の反復で並んでいた。左を見てもペンギン。右を見てもペンギン。振り返ってもペンギン。目がパターンの切れ目を探して、見つけられない。

彼女は動きを止めた。

一瞬、忘れた。任務を忘れた。最後まで読んでいない指令書を忘れた。なぜ地球の底まで来たのか忘れた。ペンギンがあらゆる方向を埋め尽くしていて、同じ顔がこれだけ並ぶと脳に何かが起こる。ロンドンの群衆では一度もなかったこと。圧倒されるのとは違う。消されるのだ。3万羽のペンギンの真ん中に立つのは、同じ言葉を何度も繰り返して意味がなくなるのに似ていた。

スマートフォンを持ち上げた。

写真を撮り始めた。

ペンギンの写真。左を向いたペンギンの写真。右を向いたペンギンの写真。前のペンギンの写真と同じに見えるペンギンの写真。コロニーの中を歩きながら、スマートフォンを構えて、撮って撮って。毎回ほぼ同じ画像。この大陸のペンギンは全員同じ衣装で来ることに合意したらしい。

ATが肩から見ていた。「警部補。同じ種を同じ角度から32枚撮影しました。」

「みんな違うわよ、ダーリン。」

「違いません。」

「あの子はくちばしがちょっと大きいでしょ。」

「全員くちばしがちょっと大きく見えます。遠近法の問題です。」

撮り続けた。40枚。50枚。ロンドン警視庁の警察官が作成した史上最大の同一ペンギン肖像写真コレクションで、スマートフォンのストレージが静かに埋まっていった。

「ロンドンに帰ったら、このペンギンがぎっしり詰まった写真を2000ピースのジグソーパズルにしてプレゼントするわ。楽しんでね。」

ATが首をかしげた。「大変興味深いプレゼントですな。光栄です。」

ウィスキーの耳が回転した。前、横、ぺたんこになり、そして元の位置に戻った。

小さなペンギンのヒナがウィスキーに近づいてきた。柔らかい灰色の羽毛が彼を見た。ウィスキーがヒナを見た。周囲をスキャンした。半径512メートル以内に、このヒナに応答する成鳥はいなかった。彼は斜めがけのノッティングヒルのトートを開け、ヒナを中に入れた。偵察資料である。北極では温かい岩の上からレミングを見ていた。ここではペンギンを持ち運んでいる。ウィスキーは本任務に、非公式の項目を1件追加した。

彼女はスマートフォンを下ろした。見回した。デザイナーズブランドの総柄のように、同じ模様が地平線まで繰り返されていた。

「さて」と言った。「任務よ。」

スマートフォンをタップして指令書のファイルを開こうとした。

画面が真っ暗。

ボタンを押した。何も起こらない。

もう一度押した。長押し。タップ。振った。

スマートフォンは死んでいた。壁に投げつけられた劇的な死ではない。トイレに落とされた死でもない。静かな死。冷たい死。同じペンギンの53枚目の写真と54枚目の間のどこかで、バッテリーは想定されたことのない気温に白旗を上げ、苦情もなく、式典もなく、バッテリー残量低下の警告すらなく、静かに逝った。

P is for Phone, who froze at the Pole.

フォンのピー。極地に凍る。

この世での最後の仕事は、ペンギンの写真だった。すでに52回撮った写真とまったく同じペンギンの写真。冗長の一生。壮大なる無駄遣い。

彼女は真っ暗な画面を見つめた。南極の風がウィッグを引っ張った。

ペンギンたちはただ静かに立っていた。風の音などないのに彼女には聞こえてくるのだった。

「嘘でしょ。」

もう一度ボタンを押した。もう一度。もう一度。

「嘘。嘘。嘘嘘嘘——」

「現在の外気温はリチウムイオン電池の動作保証温度を大幅に——」

「分かってるわよ、ウィスキー!」

スマートフォンを胸に押し当てた。それから空に向けて掲げた。地平線すれすれの南極の太陽が温めてくれるとでもいうように。それからもう一度振った。もう二度と動かないものを人間が振るときの振り方で。

消えた。任務指令書。座標。詳細。全部。残っているのは彼女が覚えていること。覚えていることは不完全だった。

ペンギンを見た。ペンギンが見返した。3万の同じ顔。何の助けにもならなかった。

トートの中で、ヒナが小さな声を出した。ウィスキーがまばたきした。1回。長く。

調査基地は氷棚の上に建っていた。スキー脚に載った連結式のモジュールが一列に並んでいる。かつては野心的な赤色に塗られていた。今は霜に覆われて白い。野心は残っている。見えないだけだ。英国南極調査局。風の中で旗がはためいている。

ミス・キャスリングはドアで警察手帳と笑顔を見せた。予定されていたかのような笑顔。予定されていなかった。誰も予定されていなかった。南極の5月だ。4人だけの越冬隊員は3ヶ月間新しい顔を見ていなかった。新しい顔はオーロラ柄のジャケットを着ていて、肩にレイヴンが乗っていた。

紅茶が出された。ミルクなし。彼女は、生き延びるためには時に犠牲が必要だと理解している女性の品格でそれを受け取った。抹茶ラテを思い浮かべながら一口飲んだ。

「さて」と言って、天気の印刷物とペンギンの個体数グラフに覆われたデスクにマグカップを置いた。「コンピュータが必要なの。あと、ウィスキー、ダーリン、スマートフォン直してくれない?」

ウィスキーがスマートフォンを受け取った。裏返した。爪の先から細いプローブを伸ばした。背面パネルを開けた。正確に。急がずに。彼の爪は、これよりはるかに高度な技術と接続するために造られている。

32秒間、中身を調べた。

「ロジックボードが熱衝撃を受けています。急激な温度差による結露が短絡を起こしました。」間を置いた。「メモリチップ。シリコンの結晶構造が破損しています。データは消失しました。」

L is for Logic board, who burned in the frost.

ロジックボードのエル。基板、凍傷す。

「焼けた?凍ってるのに?充電は100%だったのよ。嘘でしょ。」

「損傷は不可逆です。修復はできません。」

彼女はスマートフォンを見た。次に窓の外。コロニーが地平線まで続いていた。次にまたスマートフォンを見た。

「……分かったわ。コンピュータね。」

共有スペースに、使われていないデスクトップが1台あった。ケトルと、誰かが個人的な見解を書き込んだ周期表のポスターの隣に。

画面が点いた。緑の丘。白い雲。世紀の変わり目から変わっていないタスクバー。ウィンドウズXP。外のペンギンの大半より古いデスクトップ。

ウィスキーがデスクに座った。耳が回転した。前。横。戻る。

「このオペレーティングシステムは4,096日以上セキュリティ更新を受けていません。」

「使える?」

「使えます。出てくるものの信頼性は保証できません。」

灰色の前足をマウスに置いた。カーソルが動いた。ブラウザが開いた。別の時代の青い文字のアイコン。ホームページはもう存在しない天気予報サービスだった。接続が這うように遅い。

「ウィスキー、ダーリン。ペンギンを探してほしいの。TAXっていう名前の。どこにいるか分かる?」

ウィスキーがタイプした。検索した。待った。接続が途切れた。

「この端末からアクセス可能なデータベースの範囲では、該当するペンギンは確認できませんでした。ただし、このシステムの信頼性を考慮すると、確定的な結論ではありません。」

彼女は画面を見つめた。次に窓の外。

「でも覚えてるのよ。確かに読んだの。」

沈黙。外の風。古いプロセッサのうなり。

ウィスキーは別の検索を試みた。衛星画像。地図。この地域の位置データ。接続がまた途切れた。結果が一筆ずつ描かれる絵のように段階的に読み込まれた。海岸線が最初に現れた。次に氷。次にラベル。前世紀のフォントで。

それからまともな地図には載るはずのない場所が次々と出てきた。温泉リゾート。ペンギンスパ。「南極ウェルネスリトリート」なるもの。評価は4.5。レビュー2件。どちらも2009年に書かれたもの。

「ミス・キャスリング。結果は信頼できません。」

彼女はもう肩越しにのぞき込んでいた。「温泉?」

「この端末の地図データは——」

「温泉?南極に?」

「デセプション島の火山活動は地熱によって——」

「南極に温泉があって誰も教えてくれなかったの?」

彼女の肩で、ATが首をかしげた。「デセプション島。名前だけでも警戒に値しますね。」

「リラクゼーションの予感がするわ、ダーリン。」

デセプション島は、割れたカップの縁のように海から突き出ていた。火山性のカルデラ。片側が開いていて、中の水面は静かで暗い。岩は黒かった。空気は硫黄と、もっと古い何かの匂い。

調査基地の補給船に便乗して到着した。ウィスキーが状況を詳細に記録し、ミス・キャスリングが「冒険」と表現した経緯を経て。ヒナはトートから出なかった。

砂浜は黒い火山性の砂で、地面から細い糸のように蒸気が上がっている。そして砂と波打ち際の境目に浅い温水プールがあった。

ジェンツーペンギンが近くにいた。彼らは蒸気など気にせずただ、眺めている。

ここは任務目的地ではない。ミス・キャスリングも分かっている。ウィスキーも分かっている。ATも分かっている。全員分かっている。

彼女はブーツを脱いだ。

「頭をクリアにしないとね。刑事にとって一番大事な道具はリフレッシュした脳よ。」

ブーツを岩の上に置いた。ジャケットを脱いだ。国宝を扱う学芸員の慎重さで畳んだ。寄り道ではなく戦略的判断だという態度で水に入った。

肩まで沈んだ。目を閉じた。南極の空が暗く、果てしなく広がっていた。蒸気がウィッグの周りに巻いた。

「あら、最高。」

目を開けた。ウィスキーを見た。水際より高い岩の上に座っている。チタン合金とプラッシュの10キロ。胸元にヒナがうずくまって、うとうとしている。リラクゼーションの運用的価値を計算してエラーを返した機械の表情で成り行きを見守っている。水際の平たい岩にいるATを見た。

「さて。せっかくだし。任務について覚えていることを話しておくわね。」

ATが首をかしげた。ウィスキーの耳が前を向いた。

「お使いよ。政府系の。省庁の誰かが、ここで何かを回収してほしいって。TAXっていうペンギンが関わってて、TAXのいる場所に行かないと受け取れない。」

「政府の配達任務にペンギンが関わっている。」ウィスキーが言った。

「指令書にそう書いてあったのよ。」

「現在凍結中のスマートフォンにある指令書に。」

「そう、ウィスキー。」

「回収するものの詳細は。」

「スマートフォンの中。」

「正確な座標は。」

「スマートフォンの中。」

「依頼主の連絡先は。」

彼女は少し深く沈んだ。「……スマートフォンの中。」

ATがまばたきした。1回。「つまり私たちは南極の温泉にいて、任務の詳細なし、通信手段なし、座標なし、作戦指揮官は入浴中ということですね。」

「戦略的リフレッシュ中と言ってちょうだい。」

沈黙。蒸気。ジェンツーペンギンがそばを通り過ぎた。

「言いたいのは」と彼女が続けた。「二人の力が必要ってこと。ウィスキー、あなたにはデータベースと処理能力があるでしょ。AT、あなたには……」曖昧に手を振った。「あの頭脳が。」

ウィスキーを見た。ウィスキーは岩の上に座っていた。岩の上の猫。処理していない。スキャンしていない。照合していない。座っている。ペンギンのヒナが、彼の胸元で眠っていた。

ATを見た。

ATはプールを見ていた。

「リフレッシュメントは」と言った。「合理的な運用上の支出です。」

水際に歩み寄った。首を伸ばした。くちばしを温かい水に入れた。頭も入れた。それから突然、尊厳がゼロで本能が100パーセントの動きで前に突っ込み、バシャバシャ始めた。

激しく。

水が飛んだ。シャンパーニュブロンドの羽が水面を叩いた。翼は、キングズイングリッシュを話すことも、建築について意見を持つことも一瞬忘れた生き物の、全力の喜びで水面を打った。9ミリ弾対応の紫のケブラーベストはもちろん防水だが、約2秒でびしょ濡れになった。

近くのジェンツーペンギンが見ていた。隣のペンギンの方を向いた。二羽とも見ていた。感心はしなかった。鳥が水浴びするのは見たことがある。

彼女が片目を開けた。

「AT、ダーリン。水がかかってるわよ。」

ATは止まった。浅瀬に立った。全身の羽から水が垂れていた。

「私は多少の認知能力を余分に持ち合わせていますが、やはり生まれた時からレイヴンなのであります。」

ATがどこにでもいる公園のカラスになった。

一度身震いした。羽が放射状に爆発してしぶきを飛ばした。落ち着いた。きちんと。正確に。ベストは2秒で乾いた。速乾。

「大変爽快です。」

彼女はチームを見た。ペンギンのヒナに巣にされている猫。乾きたてのケブラーベストのレイヴン。これが彼女の資源。南極での機密政府任務を遂行するために必要な二つの頭脳。

湯に沈み直して目を閉じた。

「よし。この後、なんとかするわよ。」

ウィスキーがまばたきした。1回。長く。作戦報告書には絶対に書かないことを目撃した機械のまばたきだった。

デセプション島の岩の上に座っていた。乾かしながら。考えながら。蒸気が上がり続けている。

ミス・キャスリングはジャケットを着直していた。ATは彼女の肩に戻り、翼と片脚を伸ばして、いつものストレッチを始めた。ウィスキーは少し離れて座り、耳がゆっくり回転していた。特に何も処理していない。

任務に形がなかった。スマートフォンは死んでいた。地図は信頼できなかった。座標は消えていた。残っていたのは断片。ATが出発前の数日間に、たまたま目にしていた情報の欠片。

彼女のデスクにあった書類。オフィスのテレビで流れていたニュース速報。ブラウザのタブに開いていた財務レポート。見出し。数字。一つ一つは何の意味もない名前。

ATはそれを見ていた。ATは全部覚えている。だが見ることと理解することは別の作業であり、データは文脈なく、目的なく、散らばった点をパターンに変える高度なしに収集されていた。

「警部補。」

彼女が彼を見た。

「任務指令書の要素を再構成できる可能性があります。出発前の数日間に複数の書類を目にしました。当時、その関連性は把握していませんでしたが。」

「覚えているの?」

「全て覚えています、警部補。問題はそこではありません。組み立てです。」

間を置いた。片方の黒い目が水面を見ていた。もう片方が空を。

「組み立てるには、飛ぶ必要があります。」

蒸気が上がった。ペンギンが見ていた。ミス・キャスリングは何も言わなかった。ウィスキーの耳の回転が止まった。

ATはナイツブリッジ以来、飛んでいなかった。ハイドパークに降りて、カラスに囲まれて、スパンコールのコートを着た女性に、飛べるのに飛ぶことをやめた鳥の理由を説明したあの日以来。飛ぶと見える。見すぎた。

長い沈黙が続いた。風。水。硫黄。

「行ってらっしゃい、ダーリン。」

ATが翼を全開に広げた。肩の上にいる時より大きかった。ずっと大きかった。高度のために、距離のために、地面と空の間でしかできない思考のために作られた翼幅。

飛び立った。

一打、二打。カルデラの上昇気流をすぐに見つけると、一気に高く上がった。左に旋回すると、島が小さくなっていく。ペンギンも、蒸気も、プールも、ミス・キャスリングもウィスキーも補給船も、全部が遠ざかっていく。

さらに上がった。

空気が薄くなり、風が変わった。眼下にデセプション島。暗い海に浮かぶ暗い輪。その先には南極半島が広がる。氷と岩と水。隠すものが何もないのに、全てを隠している大陸の幾何学。

ATは考えた。

言葉ではなく、直線でもなく、空間で。ハイドパークで説明した通りの三次元。データポイント間の接続が、高度とともに見えてくる。研究チームが10年かけて理論化するパターンが、一呼吸の間に、300フィートの上空から見えてくる。

デスクにあった書類。国防省のレターヘッド。部分的な文面。サーバーについて何か。場所。コードネーム。

ニュース速報。データセキュリティの報道。北欧。寒冷地のサーバーファーム。

財務レポート。インフラ支出。南極調査予算。「デジタルアーカイブ維持管理」の項目。既知のどの調査プログラムとも一致しない。

タブレットに表示されていた見出し。コーヒーマグに立てかけてあった。リナックスについて何か。オープンソース。脆弱性。

書類の中の写真。建物。低い。南極の岩に溶け込む灰色。下端に座標。部分的に隠れている。6。4。南。

ATは空中で旋回した。ピースが動き、回り、並んでいく。サーバー。南極。コードネーム。国防省。写真。64、南。

コードネーム。レターヘッドで見た単語だ。コーヒーの染みに半分隠れていたが、三文字だけは読めた。T、U、X。

ATは止まった。翼を広げたまま空中で静止し、上昇気流と、パターンが完成した瞬間の絶対的な静けさに支えられていた。

リナックス。オープンソースのオペレーティングシステム。1991年に誕生した。そしてそのマスコットは、創始者が選び、プログラマーも、サーバー管理者も、与えられたOSに満足できずに自分で入れてみようと思い立った16歳も知っている。

ペンギン。

丸くて、陽気で、満足げなペンギン。名前はTux。

ATは翼を畳み、落下した。

2秒。3秒。翼を開き、旋回し、水面すれすれで入ってきた。爪を伸ばし、ウィスキーの横の岩に着地した。小石は一つも飛ばなかった。

羽は乾いていた。南極の風が、ベストの手洗いラベルにはできなかったことをした。背筋を伸ばして立った。頭を高く。目は明るく。

「Tux。」

一度だけ言った。静かに。叫びではなく。感嘆でもなく。パズルの最後のピースを置くような慎重さで、置かれた一語。

ウィスキーの耳が前に跳ねた。両方。同時に。青い目がATに固定された。縁に銅色がちらついた。

「リナックス。」ウィスキーが言った。

「ええ。」

「サーバー。コードネームはマスコットです。」

「ペンギンですよ、ウィスキー。私たちが探しているのはペンギンです。」

彼女はATを見た。ウィスキーを見た。ビーチに立っているジェンツーペンギンのコロニーを見た。

「……ほら、ペンギンでしょ?」

半島の反対側の尾根に、灰色の建物があった。低い。周囲の南極の岩と同じ色。300フィート上空のATの目がなければ、通り過ぎていた。

旗もない。看板もない。鉄の扉が一つ。

中に入ると、暖かかった。何時間も氷の上にいた後では、別の季節に踏み込んだような空気だった。サーバーが動いていた。何列にもきちんとラックに収められ、ケーブルは束ねられてラベルが貼られ、インジケーターの光が一定のリズムで点滅していた。誰かがこの場所を管理している。誰かが気にかけている。配線はきれいで、床は乾いていて、ラックは整然と並んでいた。この施設が何であれ、放棄された場所ではなかった。

ミス・キャスリングが列の間を歩いた。広告で見たことのある、シティのビルで見たことのある、もう生きていないスマートフォンのアプリで見たことのあるロゴ。サーバーの筐体に印刷された企業名が次々と並んでいた。

そして、その中に一台。白い筐体、ライトグレーのトリム。企業ロゴなし。社名なし。ただステッカーが一枚。

小さい。四角い。角が少しめくれている。

ペンギン。丸い。白と黒。黄色いくちばし。フレンドリーに設計されて、あらゆる妥当な予想を超えて成功した漫画のキャラクターの、満足げな表情で座っている。

Tux。

彼女はステッカーを見た。

「あら、ペンギン。」近づいた。「ぽっちゃりした子ね。可愛い。」

ATとウィスキーが目を合わせた。機密任務指令書の複合的な多元分析再構成を完了した二つの知性が、結論を「可愛い」と評された時の目線。

ラックの横のテーブルに、何年も前にタイムアウトしたログイン画面を表示しているモニターの横に。スチールのケース。封印。蓋に国防省の紋章が浮き彫り。

「ハードコピーです。」ウィスキーが言った。

彼女はケースを手に取った。裏返した。ロックを確認した。

「よし。証拠確保。任務完了。」ケースを脇に抱えた。「さあ、帰りましょうか。」

列の端で立ち止まった。振り返って、サーバーラックを見た。またたく光。静かなうなり。白とライトグレーの筐体に貼られた、ぽっちゃりペンギンのステッカー。企業の巨人たちに囲まれて。

「TAX」と小さく言った。

「Tuxです」とウィスキーが訂正した。

「そう言ったでしょ、ダーリン。」

HMS プロテクターの甲板は灰色の鉄で、塩をかぶり、触れると冷たかった。カーペットもクッションもやわらかい照明もない。船は南氷洋を進んでいた。

ミス・キャスリングは甲板に座っていた。英国海軍の氷上哨戒船にデッキチェアはない。鉄の上に脚を組んで、オーロラジャケットをきつく引き寄せ、風でウィッグが少しずれたまま座っていた。ケースが横にあった。

ATはクリートにとまっていた。畳んだ羽とベストは、少しだけ硫黄の匂いがした。

ウィスキーは彼女の横に座っていた。足元ではなく、規定に適した距離でもなく、横に。ブルーグレーのプラッシュがジャケットの端に触れるほど近くに。

ペンギンのヒナはいなくなっていた。出港前に、ウィスキーが補給船の研究者に返したのだ。返す前に彼はヒナに頬をすり寄せた。標準的なデータ照合手順である。それから研究者に言った。「この子をピンクレディーに渡してください。個体番号256。育児実績があり、つい最近ヒナを喪失しています。彼女は必ず育てます。」研究者はかなり驚いていた。離されるとき、ヒナは鳴いた。研究者はさらに困惑した。

甲板の下では乗組員が、レゲエ、ドラムンベースなどを詰め込んだ自分のプレイリストを聴きながら夕方の作業をしていた。同じ音量でエンジンがうなっていた。

抹茶ラテもマシュマロもスマートフォンも電波もロンドンも、何もない。

彼女が空を見上げた。

空が動いていた。

雲でも星でもなく、その両方の間にあって、両方の先にあるもの。まず緑。淡い、ありえない緑。光になる前の光が自分を思い出した色が、水に落とした墨のように暗闇に広がった。ゆっくり、速く、またゆっくりと。紫になり、白になり、また緑になった。さっきより深い緑が、地平線から地平線まで、空全体に折り畳まれては開かれた。世界の屋根を持ち上げて、その下にずっとあったものを見せているかのように。

オーロラ・オーストラリス。

南極光。

彼女はウィスキーを見ずに言った。

「ダーリンとディスパッチの接続を切った理由はこれ。北極にはオーロラがあるってネットで調べたのよ。早めに仕事片付けてみんなでのんびりしようと思ってたんだけど、まさか極を間違えたとは思わなくて、ちょっと計画の始めは失敗したんだけどさ、いたね。ここにも。よかったわ。」

光を見ていた。

「ロボット猫にシャンパーニュと和牛ステーキご馳走しても意味ないじゃない?AIって記憶はできるでしょ?」

「オーロラってさ、カーテンっていうよりピアノの鍵盤みたいね。波打つ色が、音になって聞こえてきそう。」

「南極のミックステープができたよ。」

「お誕生日おめでとう、ウィスキー。」

オーロラが動いた。緑と紫と白が南極の空に折り重なり、鉄の甲板に映り、暗い水面に映り、感情を持たず微笑む理由のない機械の青い目に映った。

口の端がわずかに動いた。1ミリにも満たない、運用ログのどこにも記録されず、プログラムされた反応のどれとも一致せず、行動設計のどの既知機能にも対応しない調整だった。

何も言わなかった。

彼の一番深層から2番目に、この美しい絵画の記憶が更新された。

光が空を渡り、船が海を進み、風は冷たさと沈黙だけを運んだ。

長い間、それだけだった。

つづく

次回:「ホワイトチャペルの悪夢。切り裂きジャックの召喚。オペラ座の怪人。」

本日のミス・キャスリング

  • ジャケット: オーロラ柄ダウン、玉虫色の緑と紫、紫のエコファー襟袖口(南極フィールドテスト済み)
  • ブーツ: 白エコファーロングブーツ、厚底ソール(氷上評価:非推奨)
  • ウィッグ: ブロンド、肩丈(南極規格の耐風テスト、持ちこたえた)
  • 目的地: 南極(今回は正解)
  • 任務目的: TAX(実はTux、実はペンギン、実はサーバー)
  • 犠牲: スマートフォン1台、極地にて凍死。フォンのピー。遺作:53枚目の同一ペンギン写真。死因(改訂):ロジックボードのエル。基板、凍傷す。
  • 温泉: 寄り道した。脳リフレッシュ済み。ATは公園のカラスになった。温泉で作戦会議を開催。
  • ATの飛行: 2回目。チームのために飛んだのは初めて。
  • 帰りの足: HMS プロテクター、英国海軍氷上哨戒船(マシュマロなし、抹茶なし、デッキチェアなし、硫黄の匂い付き)
  • ウィスキーの誕生日: 5月8日
  • ステータス: オーロラ・オーストラリス

ウィスキーのログ

任務記録、シリアルユニット09。

回収対象TAX:該当なし。回収対象Tux:発見。国防省のハードコピー:確保。以上が公式記録である。

付随事項:本任務中、通信は全期間不通であった。原因は作戦指揮官により機密指定されている。指定の理由を、本ユニットは現在把握している。照会は申請しない。

ペンギンのヒナ1羽を研究者に引き渡した。当該個体に親鳥はいない。当該個体が本ユニットに接近した理由を、本ユニットは把握していた。引き渡し先の選定は完了している。データ照合手順を1回実施した。手順は標準的である。研究者の困惑は本記録の対象外である。

本任務には、記録されていない事象が1件存在する。記録の失敗ではない。保存場所の変更である。当該データは消去不能領域に保存された。一番深層から2番目。

5月8日を、良好と分類する。