ドラッグ・ディテクティブ・クイーン:ミス・キャスリング事件簿 — 第2話:鼻は知っている

ドラッグクイーン刑事、ミス・キャスリングとAIロボット猫ウィスキーがポートベロー・マーケットでスリ団を追う。ドラッグ・ディテクティブ・クイーン シリーズ第2話。コメディミステリ小説 by M.K. Flint.

ノッティングヒルの空は古い食器洗いの水のような色をしていた。降るのか降らないのか決められない、いかにもロンドンらしいグレー。今年は冷夏で8月を過ぎても3月と変わらず肌寒い。

ポートベローは観光客でごった返していた。毎週土曜日は週で最後のマーケット日。ヴィンテージディーラー、バスカー(路上ミュージシャン)、野心と後悔の匂いがする屋台から怪しいパエリアを売る男。ファラフェル屋台。立ちのぼる煙の向こうに、アンティークに見せかけた一度も磨いたことのないスプーン。訳ありげなセカンドハンドのウェディングドレス。細長い一方通行の道は、露天商と観光客で賑わういつもの光景だった。

ロンドン警視庁警部補のミス・キャスリングは、スパンコールの豪華客船のようにアノラックの海を突き進んでいった。その圧倒的なグラマーだけで群衆を左右に割っていく。ブルーのスパンコールのフルレングスコート、肩には紫のフェザートリムが揺れ、避けるのが遅い者の腕を撫でていく。その下に黒のサテンブレザーとお揃いのサテンパンツ。金糸のペイズリー刺繍が光を拾っている。黒のプラットフォームアンクルブーツ。肩にかかるブロンドのウィッグ。ミンクのようなつけまつげ。MACのスタジオフィックス3層。ポートベローが彼女専用のランウェイに変わる存在感だった。

左手には、上品なセリフ体でNotting Hillとプリントされた布のトートバッグ。観光客は全員買い、地元民は全員持っていないふりをする、あのトートバッグ。

その横を、かなり低い位置で、サージェント・ウィスカーズが後ろ脚でトコトコと歩いていた。正式にはロンドン警視庁自律捜査課シリアルユニット09。AI搭載のロボット猫であり、ミス・キャスリングのパートナー。だが彼女は「ウィスキー」としか呼ばない。ブリティッシュショートヘア型、体重10キロ。チタン合金のフレームを覆う高密度のブルーグレーの毛並みが、通りを歩く人々の視線を集めている。後ろ脚で立てば60センチ弱。右前脚には、おそろいのトート。

「ウィスキー、これ見て!」ミス・キャスリングはヴィンテージジュエリーの屋台で足を止め、小さなシャンデリアほどの大きさのラインストーンのクリップオンイヤリングを掲げた。

ウィスキーの耳がぺたんと伏せた。

「ミス・キャスリング。」

「ん?」

「勤務中です。」

「わかってるわよダーリン、でも見てよこれ」

「作戦行動中の買い物は、ロンドン警視庁行動規範第4.7条『配備中の職務外活動』に対する直接的な違反です。」青い目が彼女の手の中のトートに固定された。「記念品の購入も同様です。」

彼女はノッティングヒルのトートを胸に抱きしめた。「これは偵察資料よ。」

「トートバッグです。」

「現場で購入したトートバッグよ。全然違うの。」

ウィスキーがまばたきした。一回。長いやつ。それから耳が機械的な正確さで前方に回転した。

「ミス・キャスリング。本日の作戦目的をご存知ですか。」

「もちろん知ってるわよ。」

「では述べてください。」

彼女は手をひらひらさせた。「なんか……バッグがどうとか。」

「過去6週間にわたり、このマーケットでプロのスリ集団が活動しています。被害者は400名以上。推定被害総額4万ポンド超。我々の目的は、ノッティングヒル・カーニバルまでにメンバー全員を特定し逮捕することです。カーニバルまであと2週間。」呼吸をしないAIロボットの猫が一呼吸の間を作った。「これは買い物旅行ではありません。」

「両方できるわよ。」

「できません。」

だがミス・キャスリングはもういなかった。3軒先のヴィンテージ古着屋に、磁石のように引き寄せられていた。レザージャケットがラックにずらりと並んでいる。シアターの主役抜きのコーラスラインのように。

彼女は舞台の演出家の集中力でジャケットをかき分けた。

黒。いや。茶色。ありえない。タン?この景気で?いや。また黒。つまらない。フリンジ?絶対にない、ここはナッシュビルじゃない。

そして、見つけた。

ピンク。ホットピンク。小さな、手縫いのスパンコールで覆い尽くされた、ロンドンのどんよりした光を捕まえて空の陰気な顔にお返しするようなジャケット。ライダースジャケット。16号サイズ。入場するだけじゃなく、ドアを蹴り開けて「ここの責任者は誰?」と聞くようなジャケット。

「あら、」彼女は息を呑んだ。「あら、こんにちは。」

値札に手を伸ばした。もう片方の手がバッグの中へ。

手がバッグの中にとどまった。

手がバッグの中を動き回った。

手がもっと速く動いた。

「うそ。」

バッグの中身をすべて屋台のカウンターにぶちまけた。口紅。コンパクト。警察手帳。手錠。緊急つけまつげ用接着剤。豹柄の巾着袋。いつ行ったか覚えていないデパートのサンプルサイズの香水3本。財布がない。

「ないないないない」

コートのポケットを確認した。内ポケットも。自分で縫い付けた秘密のポケットには秘密しか入ってないから、そこにあるはずはない。

心地よい重さの存在感のある長財布。

が、ない。

「いやあああああああ!!!」

彼女の叫びは、ポートベローの喧騒を突き抜けた。バスカーがコードの途中で止まった。ポーズを決めた家族を撮っていた父親が、携帯を落とした。

誰かが落としていったピザに群がっていた数羽の鳩が、飛び立った。

「お財布!!!誰かにお財布盗まれた!!!」

ウィスキーが足元に現れた。「特徴を述べてください。」

「ほら、あれよ!北パイナップル島のア・ラ・モード・ピーチマティーニNA女王のお財布!!世界で10,000個!!イギリスではリバティが独占販売で1,000個だけ!私の財布には数字が二つ刻印されてるの!世界で5,698番、リバティで07番よ!!!」

近くの夫婦が聞き耳を立てていた。妻が思わず叫んだ。「ピーチマティーニNA女王の?あの限定の?」

夫が身を乗り出した。「07番?あの6歳で即位した——」

「わかってるわよ」と妻が遮った。「うちの娘はコッツウォルズから頑張ってリバティまで行ったのに1,001番目だったの。リバティの店員さんにコーヒーいただいたらしいけど。」

「見つける。逮捕する!グラマーに。」ミス・キャスリングが宣言した。その声は3軒先のカフェまで届き、フラットホワイトを飲んでいた男がむせた。「今日で終わらせる。」

彼女はカウンターに散乱した中から豹柄の巾着袋をひっつかみ、口を開けて、2つのアイテムを取り出した。

犬の耳がついたヘアバンド。

そして小さくて丸い、犬の鼻のプロテーゼ。

ヘアバンドをつけた。鼻を自分の鼻の上に装着した。ラインストーンの屋台の鏡をちらりと確認した。

「ベルジアン・マリノアみたいでしょ。」

ウィスキーは何も言わなかった。

「……それは何ですか。」

「これはね、」彼女はマニキュアの爪で鼻をトントン叩いた。「K9セントプロ・マークIII。先月、ロンドン警視庁応用技術部が開発したの。犬の嗅覚と聴覚を97パーセントの精度で再現するのよ。」

「なぜ耳がついているのですか。」

「犬だからよ、ウィスキー。犬には耳があるの。」

「犬に耳があることは認識しています。私が質問しているのは、香り検出装置になぜ装飾的な——」

「装飾じゃないわ。指向性オーディオアンプが内蔵されてるの。」彼女はヘアバンドを整えた。「さて。なぜあなたを使わないのか、気になってるでしょ。」

「気になっておりません。」

「まあいいわ、教えてあげる。あなたは猫よ。そして猫には致命的な弱点が一つある。」彼女は人差し指を立てた。「またたびよ。マタタビラクトンかネペタラクトンをひとふりされたら、あなたはクリスマスの子猫みたいに床でゴロゴロ転がるの。もしこのスリたちが何らかの猫対策を持っていたら、あなたは無力化される。だから。」彼女は犬の鼻を指さした。「私がやるわ。」

ウィスキーの耳がぺたんと伏せた。次に横を向いた。そして正面に戻った。1.2秒間に3つの感情状態。苛立ち、憤慨、そして技術的根拠に基づく議論に負けた者の静かな受容。

「……どうぞ。」

ミス・キャスリングは目を閉じた。プロテーゼの鼻で息を吸った。

世界が爆発した。

パエリア。ドーナツ。EVバッテリーがじわりと消耗していく甘く焦げた化学臭。ロンドンの半分はもう電気で走っているが、K9セントプロにとって、クリーンな空気など存在しない。誰かのコロン、つけすぎ。濡れた犬。乾いた犬。コーヒー。オーツミルクと不安の入ったコーヒー。古いレザー。古いレザーのふりをした新しいレザー。そしてそのすべての下に、カオスの中を針のように縫っていく匂い。

皮脂。外国の通貨。過去10分間に複数の人間に触られた財布特有の、かすかで特徴的な金属臭。

そこだ!鳥の羽が大きく羽ばたくように目を開けた。

「見つけた。」

彼女は通りの中央からマーケットを挟んで右の歩道に猛速度で入った。群衆が割れた。コートのせいもあり、犬の耳のせいもあり、だが何よりもその表情のせいだった。

3軒先。4人の人影。女2人、男2人。ウエストエンドのアンサンブルのような振り付けの優雅さで群衆を捌いている。一人がぶつかり、一人が抜き、一人が渡し、一人が歩く。古典的な4人組スリ。

ミス・キャスリングはスピードを落とさなかった。

「あたしのお財布返しなさいよ!!!!」

フォーメーションが崩壊した。女の一人、渡し役がパニックを起こした。ジャケットの中に手を突っ込み、ピンクの財布を引っ張り出した。表にはピーチマティーニNA女王のポートレートが穏やかに微笑み、裏には北パイナップル島の国旗(もちろん、黄金のパイナップル)。そして、投げた。

財布は完璧な弧を描いて宙を舞った。くるくると回転し、女王、パイナップル、女王、パイナップル。ピーチマティーニNA女王の輝く顔がどんよりした光の中で一瞬、栄光に輝いて。

群衆のどこかに落ちた。

ピンクの財布が落ちた場所を嗅覚で確認した。

1セカンド。

ミス・キャスリングはスリたちに飛びかかった。二人が左に逃げた。スパンコールのクロスラインで切り倒した。ラグビーのコーチなら涙を流すレベルの。一人が右へ。

ウィスキーが前方に跳躍した。品のある足取りで後ろをトコトコ歩いていたはずが、チタンとプラッシュの10キロ全体で逃走者の胸に着地し、ノートパソコンの上に座る猫の静かな威厳を持って、男を石畳に押さえつけた。

四人目が屋台を飛び越えようとした。ミス・キャスリングがラックからヴィンテージのフェイクファーのストールを掴み、投げ縄のように足首に巻きつけ、アーティザナルキャンドルの展示の中に引きずり倒した。

容疑者4人。逮捕4件。露天商たちが歓声を上げ、拍手と口笛が飛んだ。彼らはおそらくこのスリたちに悩まされてきたのだろう。「ようやく捕まったぞ」という声があちこちから聞こえてきた。制服警官が2人、人込みをかき分けて到着した。ちょうど全員が地面に押さえつけられた後に。

彼女は振り返った。どこ?

「ウィスキー、お財布どこに落ちた?」

探した。屋台を過ぎ、群衆を過ぎ、「本物のヴィクトリア朝の懐中時計」が「絶対にレプリカではない」と誰に対してでもなく熱弁している男を過ぎ。もう1度匂いを嗅いだ。

あった。歩道の上。ピンクの財布。ピーチマティーニNA女王の穏やかな微笑みが、灰色の空を見上げていた。

ミス・キャスリングが手を伸ばした。

犬が先に着いた。

警察犬ではない。訓練された犬でもない。小さくて丸くて、深い特権意識に満ちたフレンチブルドッグ。ポッシュな高級ペットブランドのハーネスとお揃いのリードを付け、土曜日の散歩中のその犬が、まさにこの場所で、まさにこの瞬間、自然の呼びかけに応えることを選んだ。

お財布の真上で。

時が止まった。

フレンチブルドッグは前脚を大きく開き、背中を丸め、目はどこか遠い個人的な中間地点に漂っていた。完全なるコミットメントの、紛れもない姿勢。

ミス・キャスリングは、不可避の事態が展開されるのを恐怖の中で見つめた。

「うそ。」

それが終わった時、フレンチブルドッグが壮大なる自己満足の表情でミス・キャスリングを見上げた。罪悪感のかけらもない。後悔の影すらない。生まれてこのかた一度も「ダメ」と言われたことのない犬だけが持つ、純粋で揺るぎない自信。

ミス・キャスリングが、ピーチマティーニNA女王の顔を見下ろした。生物学的堆積物としか形容できないものに、部分的に覆われていた。

「うそ。」

リードの向こうから、グレーのフーディーにジーンズ姿の若い女性が駆け寄ってきた。片手でベビーカーを押している。中では赤ちゃんがこの大惨事をものともせず安らかに眠っていた。彼女は誰かのナニーで、誰かのドッグウォーカーで、誰かの全部を一人でやっている人で、今この瞬間、歩道に飲み込まれたいという顔をしていた。

「すみません、本当にすみません、この子いつもはこんなこと、なんでこんなところで、本当にすみません」

空いている方の手で生分解性の袋をまさぐる。ベビーカーが揺れる。フレブルは、完成した作品に満足している彫刻家のような顔をしている。

ミス・キャスリングは若い女性を見た。赤ちゃんを見た。犬を見た。犬は謝罪0パーセントで見返してきた。

彼女はコートを正した。

「ダーリン、」彼女は、ウィスキーすら驚くほどの温かさで言った。「大丈夫よ。こういうことあるから。あなた手いっぱいでしょう。行って、気にしないで。」

ナニーは顔を上げた。目の前に立つ女性は、階段1段分はあろうかというヒール。眩しくてずっと見ていられない青いコート。ハロウィンでも見たことがない犬の鼻と耳。少し後ろには、灰色のずんぐりした猫が一匹、後ろ脚で立っていた。

息を呑んだ。

「……本当に、いいんですか?」

「もちろんいいわ。行きなさい。」ミス・キャスリングは笑顔で手を振った。「この子のお昼寝の方が、私のきれいなお財布より大事よ。」

ナニーは再度、ありがとうございますと言い、できる限りの処理をして、足早に去っていった。ベビーカーがガタガタ揺れ、フレブルは堂々と闊歩し、赤ちゃんは奇跡的にまだ眠っていた。

財布が残された。

ピーチマティーニNA女王の微笑みはまだ見えた。かろうじて。薄いが紛れもない有機物の膜を通して。裏側では、北パイナップル島の国旗の黄金のパイナップルが、望まれない新たなテクスチャーを獲得していた。

ウィスキーが首をかしげた。

「ミス・キャスリング。日本の文化的レファレンスを検出しました。分類:言葉遊び 78%、幸運のお守り 20%、ことわざ 2%。「運」がつく——「ウンコ」がつく、文字通り、あなたの所有物に付着しました。つまり日本文化においては必ずしもネガティブな出来事ではないようです。ポジティブ 68%に対しネガティブ 30%、無回答 2%と言ったところのようです。」

彼女はウィスキーを見つめた。

「あんた今うんこのダジャレ言った?」

「正当な文化的伝統を参照しました。」

「うんこのダジャレを言ったわね。」

「さらにデータが示すところによれば——」

彼女はコートのポケットから青いニトリル手袋を取り出して装着した。財布をつまみ上げた。腕をいっぱいに伸ばして。K9セントプロ・マークIIIはまだ顔についたままだった。

匂いが貨物列車のように彼女を直撃した。

すべての分子。すべての化合物。あのフレンチブルドッグが食べてきたもの。塩抜きフレンチフライとリブアイステーキを、ノッティングヒルで最も甘やかされた犬の恵まれた消化器系で代謝したもの。あの犬の成果物。そのあらゆる不浄な化学的特徴が、犬の嗅覚能力の97パーセントの精度で増幅され、誘導ミサイルの正確さで彼女の神経系に直接送り込まれた。

目が潤んだ。膝が折れた。コンスタンティノープル陥落以来聞かれたことのない種類の声が口から出た。

だが、彼女は手を離さなかった。

なぜなら07番だから。限定版。ピーチマティーニNA女王の顔が、汚されたが屈しない、もやの向こうから彼女に微笑んでいた。

彼女は背筋を伸ばした。息を吸った、今度は口から。肩を正した。

「よし、」彼女はかすかに声を震わせながら言った。

「お財布回収。容疑者逮捕完了。では。」

彼女はヴィンテージの屋台に向き直った。あのピンクのスパンコールのライダースジャケットがまだラックにかかっていた。16号サイズの運命のように、彼女を待って。「あのジャケット買いに行くわよ!」

ウィスキーの耳がぺたんと伏せた。

「ミス・キャスリング。まだ勤務中です。」

彼女はもう歩き出していた。

「ミス・キャスリング!!」

つづく


次回:「清水寺の舞台からミス・キャスリング参上。絶食3日の苦行とたまごサンド。」

今日のミス・キャスリング

  • コート:ブルーのフルレングスのスパンコール、紫のフェザートリム
  • ブレザー&パンツ:黒のサテン、金糸のペイズリー刺繍
  • ブーツ:黒のプラットフォームアンクルブーツ
  • ウィッグ:ブロンド、肩丈
  • つけまつげ:ミンクのような
  • ファンデーション:MACスタジオフィックス、3層
  • アクセサリー:布のトートバッグ(Notting Hill
  • 特殊装備:K9セントプロ・マークIII(犬の耳ヘアバンド+犬の鼻プロテーゼ)

ウィスキーのログ

  • 今日の犠牲:ピーチマティーニNA女王限定版の財布(フレンチブルドッグによる生物学的被害)